あなたにできること 僕には、できないことばかりだ 勉強ができない 運動ができない 興味のないことは好きになれない 知ろうとすることもできない 人とうまく話すこともできない 人と仲良くなることもできない 僕にはなにができるんだ? 仕事もできない 周りも見れない 車の運転もできない 手を挙げることができない 意見を言うこともできない 意見を持つこともできない 人を支えることもできない 守ることもできない 人の役に立つこともできない なら僕にはなにができるんだろう? 答えは見つからない そんなとき、おじいさんがそばにやってきた おじいさんは言った 「君は、君のことをよくわかっているんだね」 「できないことをよく知っているんだね」……と そして言った 「ただ、勘違いしていることがある」 「できないことばかりだとしても、できていることがすでにある」 知らない人だ 出会ってすぐのおじいさんに、君にできていることがあるだなんて言われて、驚きだ 疑いながら、聞いてみた 「それはなんですか?」 「君は存在することができている」 つまり 「この世に『生きている』ことができているんだ」 存在しているだけで誰かを安心させているんだ 存在しているだけで誰かの役に立っているんだ 存在しているだけで、それだけでいいんだ おじいさんの目は少し潤んでいるようにも見えた 存在するだけで? ここにいるだけで? それだけで、だれかの役に立っているんですか? 僕は疑問を投げかける おじいさんは、はっきりと頷いた そこにいるだけで、誰かを温める そこにいるだけで、安心させる 君はそこにいるだけで、できているんだ それだけで十分なんだ ふわりと風が吹き、上から差し込む白い光が、おじいさんを照らした 眩しくて目を瞑る 再び目を開けると、おじいさんはもうそこにはいなかった ただ、春風のように温かい風が、頬を撫でただけだった